[ 読了 ] |
白鯨を読み終えてしまった。寂寥・・・
Seat thyself sultanically among
the moons of Saturn, and take high abstracted man alone; and he
seems a wonder, a grandeur, and a woe. But from the same point, take
mankind in mass, and for the most part, they seem a mob of
unnecessary duplicates, both contemporary and
hereditary.
[君は土星の衛星群の間にサルタンのように坐し、人類のうちの最高の典型としての一人を取り上げて見たまえ、それは驚異であり荘厳であり悲愁であるだろう。しかし、同じ点から、人類を群衆として汲み上げて見たまえ、それは、必要もなく、同時代間にまた遺伝的に重複し合ったところの衆愚というほかなかろう。]
19世紀半ばという西欧近代文明の大驀進期に、メルヴィルはどのようにして、このニヒリズムに到達できたのだろう。今日は、放送大学学長さんの講演を聞く機会があったのだが、「近代の卒業のために」、あるいは「近代の拡大と閉塞、そして日本」というような、重い内容を含むものだった。妙に共鳴する部分がある。メルヴィルの感性は、現代のアメリカ人すら超えていたようだ。成長が既に停止し、これからは、どの国も経験したことのない急減な人口減少期を迎えようという日本、この国の人々の感性に近いのである。テバも、これに惹かれて読み進んで来たらしい。
それにしてもエイハブ船長の最期、白鯨にロープでがんじがらめになり云々、そんなシーンはなかった。劇画とか映画とかで、後から刷り込まれた記憶だったようだ。この作品全体がある種のアポカリプス(黙示録)なのだから、そんなエンディングは相応しくないことに気付いた。ま、ハリウッド映画ならそこまでやるんでしょうが、それこそ、西欧近代文明そのものの手法になってしまう。メルヴィルが生きていたら、映画化には絶対OKを出していないはずだ。イシュメイルの語りであるからこそ、時代を超えて、現代の我々にも伝わるメッセージがあるのではないだろうか。
"AND
I ONLY AM ESCAPED ALONE TO TELL THEE"
Job.
[「我これを汝に告んとて只一人のがれ来れり」(ヨブ記)]
寂寥・・・。しかし、ひょっとしたら、現代の日本人は、エイハブ船長からであれば、勇気を貰えるのかもしれない。
2002/02/09(Sat)
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