<テバコラ 第35話>


☆城北の酒場にて(スパイ・マスター)☆
                      
(2000/05/24)



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Gは今年も調子がいい。三連覇は固いだろう。「ON砲」、なんと心地よく力強い響き。

不沈戦艦大和の進水を知った、帝国臣民の誇りや思うべし。Gは何といっても川上

監督を中心とする神の球団だもんね。GはGodのG、……おっ、ドレミの歌にもノるぞ。

三年前の、あの関西方面の某組系・T球団の、フロックみたいな優勝は、すでに遠い

過去のことになってしまった。Gファンをやっていて本当によかった。あとはONの

個人記録やらタイトルやらが、ゾックゾック、ゾクゾク。


今日は人待ち。ここで寮の連中以外と待ち合わせるのは珍しい。残念ながら相手は

少々年上の男性だ。しかし、何と申しましょうか小西さん、これはフェルプス君も

真っ青になるようなミッションなのだ。産業スパイ、という言葉も浮かんでくる。すると、

この酒場は敵の本部にやや近すぎる、といえるかもしれない。だが、プロはそんなことを

怖れない。大仕事に多少の危険はつきものだ、と、かのアルセーヌ・ルパンも言っていた

、かな。経費的にも制約があることだし。


お見えになったら、当然、冷しビールから入る。そしてジャーン、「まぐろ刺」300円也だ。

もちろん日本酒は「お銚子」。「かれいの唐揚」200円も、「〆さば」150円も頼もう。

これだけの接待をしたら、よその店なら、軽く聖徳太子(千円札)数枚は吹っ飛ぶ。

図学のH助教授が優をくれたって、これだけのことはしてあげないな、絶対。


この椀飯(おうばん)振舞いには、当然わけがある。「取引に値する情報」というやつだ。

それは今日の午後遅くのことだった。


【この酒場の小路の先を右に曲がったところに、一軒の小さなパチンコ屋がある。

階段を降りた地下一階、窓なし。その名は「大銀会館」。台は百台もない。もともとは

コリント・ゲーム屋だったが、一年ほど前、パチンコ専門店に改装された。】


普段から余り客はいないが、今日は特にひどかった。たった一人(つまり私)だけだった。

従業員は、これはいつも、タマ売場の兄さん一人だけ。何気なく話しかけた。人類最古

(二番目?)の商売の場合、大仕事のきっかけは、極めてさりげないやりとりにある、

という教科書的好例。


(テ)どの辺の台が出るのかな。

(兄)○○番かな。


ズバリ、大正解の大当たりだった。(いつもに較べ)あまりにも玉が出たため、貧乏学生的

小市民根性が頭をもたげ、怖くなって、景品交換をしてしまった。景品交換も当然

あの兄さんだった。感謝の念を満面に浮かべつつ、


(テ)すごいね、よく判るね。

(兄)ああ、だって俺が調整しているからね。

(テ)ええーっ、そうすると、あなた様はあの釘師さま?……だったのですか。

(釘)ああ。ところで、あんたよく齋○で見かけるな。

(テ)そうですかー。齋○にも来ておられたんですかー。

   しかし、台の選び方って難しいですよね。

(釘)今度、教えてやってもいいよ。齋○で遭った時にでも。

(テ)今夜教えて下さいよ。是非、是非。

   閉店後、齋○で待ってますから。

(釘)ああ、いいよ。


釘師直伝。これに憧れない奴なんて人間じゃない。匠の技の核心が自分のものになる。

極秘、厳秘、マル秘、なんとでも呼べ。このごろ調子の悪いS先輩なら、泣きながら

土下座して「替わってくれ」、と頼んでくることだろう。えゝ〜いうるさい、替わってどうする、

ボクは自分で稼ぐんだい。S先輩は平凡パ○チの特集記事から、「パチンコ必勝法」でも

スクラップしてなさい。


ボールペンもある。メモ用にノートの小さいヤツも用意した。酒場の中でいきなり

大学ノートじゃ、相手がビビってしまうかもしれないからだ。大胆な構想、緻密な計算、

細心の気配り……エスピオナージの真骨頂…………あっ、お見えになったようだ。


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このあとは、期待通り、高度なP学の講義を受けることができました。かの金言、

「午後遅く、突然雨が降り出した休日の夕食時は、見逃がすべからず」

も含まれる、匠の秘技を伝授していただいたのです。


ところで、その後のパチ方面の成績はというと、余りかんばしくありません。これは、

何と申しましょうか、仙人の弟子とか、魔法使いの弟子という、なりそこなった話が、

古今東西にゴマンとありますよね。仙骨がないというか、パチ骨がなかったのですね。

台が大きく変化する時代でもありました。大銀会館以外は、もうほとんどチューリップ台

でしたし、そのうちに、片手で打つ台ばかりになってしまいました。


直伝の数日後、弟子は大銀会館に行きました。二人の関係をKGBに悟られれないよう、

細心の注意を払ったことは言うまでもありません。しかし、師匠はさりげなく、ある台の

ガラスをコツコツと、通りすがりに指先で叩いたのです。その日は、全ての投資を

回収して余りある、スパイ・マスターのサバト(狂宴)でありました。


大銀会館が店をたたんだのは、それから間もなくのことでした。それからは、

齋○酒場で師匠を見掛けることもなくなりました。