<テバコラ 第5話>



☆パラサイト・アトム☆  (1999/10/13)


          *ハルさんに捧ぐ*


【鉄腕アトム】

あの頃は良かった。

と言い出すと、ア○○ハイマーの助走段階に入ったと言われかねない。

しかし本当に良かった。手塚治虫の鉄腕アトム全盛の時代である。

順不同だけれど、南極観測船宗谷、原子力潜水艦ノーチラス号、

スプートニク、日本初の原子の火……

正義の子供は科学の子。科学技術立国日本。

柱時計ぐらいバラせる子でなきゃ将来はない、などと言われたものだ。

(誰でもバラせたけど)


【パラサイト・アトム】

20億年前、西アフリカの、現在はガボン共和国となっているあたりにある

オクロの谷に、U235たちが集まりだしたらしい。

その様子は、青白く優柔不断に輝くチェレンコフ光のために、

遠く離れた山の頂きからも見て取れたという。


U235族は、その活発さで知られていた。

近親のU238族にくらべれば、大変に元気のよい部族である。

ただ、彼らの不満はその部族的寿命の短さにあった。

U238族が、45億年という極めて長期にわたる活力を誇っているのに対し、

彼らU235族は、たった7億年で部族の人口が半減してしまう。


彼らはオクロの谷のあちこちでグループになって、100万年ぐらいにわたり

さかんに青白い輝きを発しつつ、持ち前の活発さで議論を続けたらしい。

空中には例のアルファ線や中性子線が飛び交い、集会の場所には核分裂生成物と

いうゴミが蓄積していった。


しかしながら、天然自然の理にさからうことは誰にもできない。

(再びパール・バック的諦念)

この集会も、はっきりとした結論・方針を打ち出すことができないうちにお開きとなる。

U235の成員は、一人また二人と去っていった。

そして、青白い光も徐々に薄れていった。


だが、この集会はU235族が予想もしなかった効果をもたらす。

数億年後のある晴れた日、たまたまこのオクロの谷を、簡単なアミノ酸を先祖とする、

紅色細菌族や藍色細菌族がふらふらと通りかかった。そこで、あろうことか、

この細菌族たちはU235の残党や残されたゴミ共に大きく影響されてしまったのである。

その結果、紅色細菌族はミトコンドリアに、そして藍色細菌族は葉緑体へと

変異させられた。


生まれもつかぬ姿になった彼らは、何と、動物体や植物体の元祖となる原始的な

非効率細胞たちと、有無を言わせぬ共生を強いられるはめになってしまった。

こうした中で、特に、動物体細胞は、その後、多細胞化し高等化(?)していく過程で、

U235族と再びかかわりを持ってくることになる。


因果は巡る、風車は回る。

進化(ただの変化?)の最終段階に至り、すでに人口が希薄化しているとはいうものの、

U235族が極めて活発な連中であり、うまく集めてやれば様々な使い道がありそうだ

ということが、ヒト族により再発見されたのである。


ヒト族が最初に考えたU235族の使い道は「傭兵」であった。

しゃにむに力まかせの暴力をふるわせる。期待通り、あるいはそれ以上、

彼らのパワーは成層圏に届くキノコ雲となって解放された。

しかし、これはあまりにも行き過ぎであった。ヒト族も、U235族を傭兵に使うことの

恐ろしさ愚かさを直ちに知ることとなった。


そこで、平和利用というコンセプトが主流になった。

比較的少数のU235族を使役して、エネルギー源として利用してやろうというわけである。

希望にあふれる時代、鉄腕アトムの時代の登場である。

あのうすら青いチェレンコフの光がT海村にも灯った。


このチェレンコフ光は、1987A超新星の時にも、岐阜県の神岡鉱山の

廃坑の中で11回の光を放った。KAMIOKANDE(カミオカンデ)、

科学立国日本の象徴、栄光の頂点。

取れ!ノーベル賞、デミング賞、グラミー賞、歌謡大賞、とにかく何でも来い!!


もちろん、この間、スリーマイル、チェルノブイリ等、まがまがしい出来事もあったが、

JCOもJPNも、この高度技術立国日本には関係ないこと、と考えた。


【ステンレスのバケツ】

鉄腕アトムの結末がステンレスのバケツだったとは……

……科学少年完敗、敗残の日々。

ブリキの太鼓(ギュンターグラス原作)で悩んでいたオスカルの方が、

ずっとまともだったのかな〜。(゚゚ )