★「坂の上の雲」のガノー氏★


司馬遼太郎の「坂の上の雲」を何気なく読み返していたら、

明治初頭の発足間もない(旧制)中学校の教育内容に触れているあたりに、

『物理は、幕末・維新のころからすでに翻訳されているガノー「窮理書」というものを

つかったが、実験などはなかった。……』と記されていたことに気づきました。

当時の日本の事情では、全国の中学校に、ちゃんとした物理の実験設備を

整えることなどは、たしかに、到底の不可能事だったはずです。

そのかわり、あの版画たちが、当時の若き旧制中学生に、おぼろげながらも

西欧の窮理の世界を垣間見せてくれたという情景を空想しました。

窮理書の挿し絵から、新しい科学・技術・思想の香りを嗅ぎ取った彼らが、

日本海海戦へと続くあの遙かな長い坂を登り始めたのかな、とまで考え、

版画恐るべしの感を深くしました。

いずれにもせよ、ガノット氏の教科書が「前世紀の後半、全世界で使われてい」た中に、

極東の日本も含まれていたことがはっきりしました。