この器具はボルタ(1745-1847)によって考案されたもので、気体の「良好さ(goodness)」を測定する目的のものでした。ユージオメータとか水電量計(日本語です)、あるいは水クーロメータと呼ばれてます。次の写真は、それが洗練された実験器具に成長したころのお姿です。成分未知の気体をある一定量入れ、そこにさらに一定量の水素を加えます。この器具の下端は管に接続されその先は水を満たした容器に浸されます。上端は気密です。電気盆などにより両端の白金電極間にスパークを起こさせると、未知の気体の一部(実は酸素)は水素と反応し、下端から水になった分の体積に相当する量の水を吸い上げます。このようにして混合気体中の可燃成分量が測定できる、というのがボルタの当初の構想でした。

このユージオメータなるもの、2003年の7月には「全国高校化学グランプリ 一次選考問題」の第二問に出題されてます。そのマクラの部分には、もっと理路整然とした説明があります。

『18世紀後半は気体に関する化学が発展し研究が進んだ.また同時に,工業化の進展に伴って,都市での大気汚染が健康面での関心事になっていた.当時の考えでは,空気中にある呼吸を支える成分(酸素)の量が多いことが空気の「良さ」(goodness)とされ,様々なユージオメーター(eudiometer:大気の良さを見る装置)が考案された.すなわち,空気中の酸素の割合を調べる装置が種々に作り出されたわけである』

工業化、都市、大気汚染、健康面と、現代キラキラ用語をちりばめて解説されているのです。カワサキ病のような問題があったのですね、すでに。どーです、Ganotって結構温故知新でしょう? 受験にも役立つかな?


ところが19世紀中葉に至り、この器具は驚くべき教育的効果を持っていることが発見されたのです。水酸気に点火すると、その爆発はとてつもない轟音を伴うのです。すると、クラスで一番怠け者の生徒でさえ、これにはブッたまげて目を覚ますことが分かったのです。さらに運さえ良ければ、彼は物理学の学習・研究に精励する可能性さえあるのです。これに気付いたのは誰あろう、あの絶対温度の単位(K)にその令名を残す、かのケルヴィン卿その人なのでありました。このK先生も面白い方で、太陽は石炭でできていると主張して、生涯絶対譲らなかったようです。もちろん、放射能とかは既に発見されていたのに、です。

話はこの器具に戻りますが、当初は漫然と、「ボルタのピストル(Volta's Pistol)と呼ばれていました。しかし、これらの形状のものはむしろボルタの大砲と呼ぶのがふさわしいようです。
これも大砲ですね。
ピストルと称すべきはこののようなものでしょう。
しかし、起電盆とかライデン瓶をセットで持ち歩かなければならなかったのですから、武器としての実用性はほとんどなかったようです。しかも弾丸がコルクです。それほど致命的な武器ではなさそうです。
ボルタの臼砲も考案されてます。ここまでくればボルタの武器コレクションですね。
しかしながら当然、これらにも臼砲としての実用性は全くありませんでした。ボルタは、危ういところで、19世紀最大の死の商人になってしまう運命から免れることができたのでした。めでたし。