“恐い器械を増援”と題した記事。酒不足で出回っている酒、水割り酒といってもウィスキーのことではない。水で薄めた日本酒のことである。


【酒屋さんも奮起、きょう、「水割り酒」退治の大決議】

「水割り酒を駆逐せよ、と酒屋さんの間から真剣な叫びがあがった−−八日午後二時から大阪堀江の大阪酒・醤油同業組合事務所で開かれた近畿酒・醤油商同業組合連合会の定時総会で酒の増産陳情とともに『水割り酒』が席上の話題を奪った。」(大阪朝日新聞、昭和十五年三月九日)

当時は水で薄めた不良酒が多く出回り、それに対抗するため組合専属の巡視員をおいて、発売を未然に防ごうというもの。そのために混ぜた水の比率を計る屈折計というものを使用するのだが、なんと大阪には一個しかないというので、東京へ十数本注文することになった。同日東京の軍人会館(現・九段会館、2.26の戒厳司令部です)でも同様の総会が行われ、「水入り」征伐に乗り出すことにしたという。


 ……これくらいの比重計が大浪速中に、たったの一本しかなかったんですね。あの大戦争をやっていた時代です。我が民族の度胸だけは凄いもんです。



一方、昔は、泡盛の度数をみるのに蒸留後の酒を茶碗から茶碗に移したり、酒をひしゃくですくい取って、上からカメにこぼし、その泡立ち具合によりアルコール分の強さを計ったといいます。つまり、アルコール度数が高いほど泡が長くもち消えにくかったわけです。この計り方に由来して“アームリ”、つまり「泡盛」となったのだという説があります。当時の不純物が多い酒ならではの現象とされます。

この泡はしかし、大切な文化的要素でもありました。混酒器(クラテル)というものがあります。ギリシア、ローマではこの容器を用い、ワインを水で割ったりしていたようです。なぜ水割りにするかは別の機会として、液面がクラテルの内縁に接する部分には、この小さな泡が環状に並びます。これを「花輪」に見立てて愛でることで、酒宴の興としたようです。こちらの軍人さんたちには、大変余裕を感じます。