★ゴッチャ!★
             
(2000/11/05)



第三回の釣行です。朝、五時半集合。世間は真っ暗。どちらかというと、

当地では、まだ昨夜が続行している時間帯です。師匠とご対面。「今日は

働くヒトの格好をしているね。よろしい!」と、早速お褒めの言葉です。

前回は、ゴルフにでも行くような格好をしていたのでした。なお、なんで

こんなに早い時間かというと、師匠の勘違いで、三十分早く港に来て

しまっただけのことです。


それはさておき、希望に満ちて六時半出港。われらがYAMAHA製の漁船は、

勇躍東シナ海へと向かいます。ここ一週間ほど、二・三の台風が荒らし回った

余波で、うねりは充分、2〜3メートル、まさに木の葉の如く翻弄されます。

遣唐使の苦労を偲びつつ、航行二時間、目的のポイントに達します。

水深約80メートル、ターゲットは再び、ミーバイ(ハタ)と白鯛です。


しかし、うねりの中の釣りは、ジェットコースターで金魚掬いをやっているような

もの。大変な経験でありました。しかも釣果は散々、いくらポイントを変えても、

シロ(白鯛ではあるが、そう呼ぶのがはばかられるような小モノ)とか、

カワハギぐらいです。大きなクーラーの中で、一番のさばっているのは氷、という

有様。前回見事な腕前を見せていた船長も、音無し・声無しです。


それにしても心配の種は、師匠の朝の一言です。「今夜の大漁祝賀会は、

二・三人ほど、もう声を掛けてある」のだそうです。これに加えて師匠の奥様、

お子さま二名です。計七・八名ノ腹腔、如何ニシテ満タサン。貧窮問答歌や、

公設市場の魚の買い出しなどが脳裏に浮かびます。心配ばかりしていたら

お腹が空いたので、ポイント移動の時間を利用してお弁当にします。

この弁当も、大漁祝賀会用に残しておいた方が良いのでは……


半分も食べないうちにエンジン音が止みます。次のポイントです。慌てて

弁当を放り出し、仕掛けを作り、海中に投入します。しかし、一日の残りは

わずか。こんな海を「恵みの海」と呼んだアホウもいたなー、などと詮方なき

回想。その時、ググッときました。ああ来たか、と座ったまま、漫然と巻き上げ

にかかると、周囲から突然の罵声。「早く巻け、根に入るぞ!」、何やら

ただならぬ気色に、揺れる船上に立ち上がり、ポンピングを開始します。


たしかに重い。タイコのリールが、時々リリースされる。ポンプ・アンド・ポンプ、

初心者は基本を繰り返すのみです。しかし、半分ほど上がったところで、急に

抵抗が弱くなります。「バレたかな?」、弱気に周りに問います。しかし周囲は逆に、

何事か確信しています。「しっかり巻け!」と叱咤します。すると、かすかに魚影、

赤いぞ、ミーバイか。それにしては大きい …… おお、アカジンでした。ミーバイの

極上モノ、最高級品です。3kgはあります …… ゴッチャ〜!


テバが、たった三度目の新米が、アカジンを上げたのです。船上に激賞の嵐が

吹き荒れます。それまでは準ボーズ状態だったのだから、ひとしおです。しかし、

事態はこれで収まったわけではなかったのでした。次の一竿で、再び、アカジン

上げてしまったのです。今回は、船上を、異様な沈黙が支配します。

後ろのおじさんは、コバンザメを釣り上げて、いまいましそうにリリースします。

船長は、竿を放り出して昼寝です。


救いは、引きあげる寸前に、ベテランさんのKさんが、白鯛を一枚上げたことでした。

これで一番ホッとしたのがテバであることは、言うまでもありません。

 …… 那覇に向かう帰途、隣にいたおじさんが、「私は五年間この海にきてるけど、

あの大きさのアカジンをあげたことがないよ」と、しみじみ述懐します。とすると、

偶然とすれば六十回に一回以下の確率です。そんなことが二度続けて起きる可能性は、

……ありえないことです。とすれば、これはやはり、天賦の才なのでしょうか。


アカジンによって、師匠も面目を保てました。ご参集の皆様に充分行き渡る量でした。

しかも、文句を言わせない質です。つくりといい、アラの味噌汁といい、たしかに南海の

魚とは思えない、かけ離れたコクのある味で、大いに珍重されるはずです。ところで、

師匠が釣り上げたシロは、煮付けになりました。これをつつきながら、師匠が、

「アカジンもうまいけど、シロも大衆的で、それなりにいけるよなあ」、とおっしゃったとき、

しっかりと頷いたのは、謙虚で忠実な弟子、すなわちテバでありました。

註:ゴッチャ!:Gotcha!:語源的には I got you! あるいは Got you! とされる
                「判った!」、「やった!」あるいは「やられた!」などの意
                ここではもちろん、第二番目の意味