★熟成の神秘★
             
(2000/09/13)



知らなかったのである。

泡盛というものは、ビン詰めにしてからも熟成が進むものらしい。

当然本命と思っていたカメによる熟成は、カメの出来の一つ一つが

微妙に違うので、仕上がりが大きくばらつくという。そのために、かえって、

大変な手間ひまがかかるのだそうだ。


このたび身辺で、古い々い「瑞泉」(ずいせん)のボトルが発見された。

この建物が建ったばかりの頃、当時の居住者(職場の先輩?)により

片隅にしまわれ、そのまま忘れられていたものらしい。とすると、

少なくとも25年は経っている。期せずしてエージングがなった泡盛である。

改めて観察すると、「沖縄県」と記されているから復帰後ではある。

しかし、メーカーの市内局番が2けたである。現在は3けたになっている。

これ以上の手掛かりがないのは残念だ。しかし、大衆酒だったのだから、

四半世紀後の今日まで生き残るとは、最初から期待されていなかったろう。

ましてや、製造年代を鑑定されることなどは、意想外だったはずだ。

やむをえない。


いかにも古風、白地にブルーの印刷というシンプルなラベルである。

もちろん白地は、相当黄ばんできている。ラベルの上の方に、

「ZUISEN − A NAME THAT MEANS THE FINEST」、という、

いかにも文部省英語的な惹句があり、米軍を上得意としていたことを伺わせる。

また、右下隅には「アルコール分 30度、メタノール 0(ゼロ)」とある。

これには泣かされた。

(意味がわからない人は、70歳代の方に聞いてみましょう)


封を切る。甘いと言ってもいいような微香が漂う。少量をグラスに取る。

慎重に口に含む。すると、その甘い香りが、口腔じゅうにふわっとひろがる。

その奥の奥に、かすかな泡盛特有の「くせ」が感じられる。もちろん、大変に

好ましい「くせ」である。はっと気づくと、いつの間にか、喉をすべり降りつつある。

良い酒の特徴だ。更に気づくと、周囲の連中は、じっとこちらを見ている。

酒の前にはすべてを忘れてしまうという、あの類人猿特有の顔・顔・顔だ。

「どうですか?」と訊いてくる。当然、「こりゃダメだよ、飲めたモンじゃない」

と応える。応えながらも、今度は、たっぷりとグラスに取り分ける。


ところで、引き続く雑談で、この酒の25年前の価格の推定値を聞いて

びっくりした。30セントぐらいだったろうという。当時のレートはよく知らないが、

せいぜい100円ぐらいというところか。もっとも、30年もさかのぼるなら、

そのころのドルは大変強くて、1ドルあれば、ランチを食べて映画を見ることが

できたらしい。その辺も考慮すると、実勢ベースでは、現在の泡盛・並クラスの

値段になるのかもしれない。


一方、25年もののクースーはどうか。

そもそも、滅多にその辺に出回るものではないのだが、最低、3万円を

切ることはないだろうとのこと。確かに、それだけの値打ちはある、と、

思わせる見事な味だ。世間に忘れ去られていたその間にも、

黙々と自己研鑽を続け、ここまで大成したのだ。大したヤツ、

と言わざるを得ない。日本酒にそれだけの根性があるだろうか。

今度、日本酒を連れてきて見習わせなければならない。

同時に、先輩たちが100本も退蔵しておいてくれていたらなあ、とも……